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酒国漫遊記(Part 24)

2010/05/30 PART 01 | 02| 03| 04| 05| 06| 07| 08| 09| 10| 11| 12| 13| 14| 15| 16| 17| 18| 19| 20| 21| 22| 23| 24| 25| 26| 27| 28

【桶OK】
大きな大きな木桶。古い町並みに行くと醤油屋さんや漬物屋さんで見かけられ、一部はディスプレイなどでも使われているのをご覧になられた方、いらっしゃるでしょうか。
 戦前まで日本酒はかなりの部分、木桶で仕込まれていました。しかし琺瑯タンクが昭和のはじめの頃に出回り始め、昭和30年代には殆どそちらに切り替わったようです。
 発酵食品である日本酒にとっては、温度管理が難しく、木肌を通じて空気が通ったり、棲み付いた微生物によって腐敗菌を呼び込む可能性が高くなり、酒造りには悪い影響を与えると考えられたため、機密性が高く清掃やメンテナンスが簡単な琺瑯、そして今ではステンレスに仕込みタンクは殆どすべて切り替わっていきました。
 加えて、木桶だと蒸発などで自然に量が目減りしてしまう減少については、課税量の観点から監督官庁である国税庁が問題視し、保健所も「木桶は不衛生」という見解を出した、所謂お上の意向も木桶が、あっという間に切り替えられてしまったのに少なからず影響したようです。
 嘗ては新樽を日本酒蔵元が20年〜40年使い、次に味噌屋さんが70年から100年、その次は醤油屋さん、更にその後に漬物屋さんに譲られていくサイクルが綺麗に出来上がっていたそうです。ですので、古い味噌屋さんの樽を解体すると、100年以上前に組まれているものがザラだとのこと。
 しかし、日本酒蔵元が木桶を使わなくなってから、新樽の需要がなくなり、したがって供給を支える職人もどんどん姿を消してしまい、日本国内では複数の職人が係わる大樽は作れなくなってしまう、そんな現実も近づいていました。
 また木桶を作らなくなったので、木桶道具を作る職人や技術も先に消えてしまったり、樵が山から大木を切り出さなくなったことで、山が荒れてしまうという副次的な影響は小さくありませんでした。
 そのような現状を憂い、声を出して行動を起こしたのは一人のアメリカ人女性。
 時代が「効率」「衛生」を優先したために、桶を一度は捨ててしまった造酒屋から復興させて「スロー」で「サステイナブル」な時代にシフトすることを提唱し、彼女の行動力によって多くの賛同を得てゆきました。
 結果、全国で19蔵が木桶を使った日本酒の仕込みを2002年ごろから再開。古い桶を引っ張り出して、現役復帰させた蔵から、裏山から樹齢200年の木を切り出して新造した蔵まで。勿論色々な苦労話はありますが、出来たお酒はどれも秀逸だったとのこと。
 私も幾つかいただきましたが、「いいワインが木桶で出来るのであればいい日本酒も木桶でというのも当たり前のことだな」という思いが直ぐ浮かびました。
 木桶仕込を知る杜氏さん、木桶作りの職人さんとも高齢化が進む中、このタイミングだからこそ継承しえた日本の伝統技術のお話でした。
そうそう、大事な方をご紹介。セーラ・マリ・カミングスさんは今も長野県小布施で頑張っています!

桶仕込み保存会
http://www.okeok.com/
桝一市村酒造場
http://www.masuichi.com/
株式会社文化事業部 (セーラさんが代表の会社)
http://www.bunji.jp/

photo
株式会社桝一市村酒造場取締役も務めるセーラ・マリ・カミングス(Sarah Marie Cummings)

 



コラム作者:プロフィール

 入江啓祐(いりえ けいすけ)
 1991年日本航空入社
 国内線・国際線の本社部門通算で10年間、全社キャンペーン・
 プロモーション企画を担当。
 日本酒を通じて世界に日本文化を紹介する「JAL Sake Project」で
 全国350社を超える酒造会社や関係省庁とのタイアップ企画を実現。
 1999年から3年間はミラノ支店に勤務。

 2007年イタリア駐在時代の縁から株式会社Spazio Incontroに入社。
 日本と海外を繋ぐビジネスと国際物流コンサルティングを
 行いつつ、銀座にて会員制日本酒サロンを運営中。
   http://nuit-ginza.jp




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