ワイン 百一話
シャトー・フィジャック(Part 1)
大西洋岸に面した温暖なメドック地方に比べて、そこから50キロ以上内陸に入ったサン・テミリオンでは、例年、秋がちょっぴり早く訪れます。この地理的なハンディキャップのために、サン・テミリオンではカベルネ・ソーヴィニヨンよりも早く実が成る、メルローと呼ばれる品種からワインを造ります。
メルローによるワイン造りでは、収穫の日が早い分だけ、ワインも早く仕上がります。 |
||
エリック・バラモン伯爵その人です。カベルネ・ソーヴィニヨンの収穫が始まった日なので、伯爵自ら畑を見回る力の入れようです。カジュアルな服装でフランクに質問に答えてくれました。 |
それならば、例年よりもさらに早く収穫が始まった年ならば、9月の終わりには、ちょうど樽に入った、できたばかりのワインをティスティングできるかもしれない、と考えました。
そこで、ボルドーのシャトー巡りの皮切りを、サン・テミリオンに定めたのです。アイデアは悪くはなかったのですが・・・。
残念ながら、著者の思惑は、少しだけ外れました。少しだけというのは、ワインはまだ発酵槽の中で「醸し(かもし)」の最終段階でした。
サン・テミリオンは、土壌の性質からコート(丘)と呼ばれる粘土が主体の地域と、グラーヴ(石)と呼ばれる砂利が多く含まれる地域に分けることができます。で、何が違うのだといいますと、土壌が異なると味が少し違うものなのです。
サン・テミリオンで最初に訪問したのは、そのグラーヴ側の代表的な造り手であるシャトー・フィジャックです。このシャトーにまつわる歴史は古く、紀元二世紀のガロ・ロマン時代にまで遡るといいます。当時この地に移り住んだフィジャキュス一族が、自分たちの荘園にその名を付けたとされています。
1892年、シャトーは現在の所有者であるマノンクール家の手に渡りました。そして、現オーナーであるティエリー・マノンクール氏が夫人とともに、世界大戦の終わったのち、1947年からシャトーの復旧に取り掛かり、栄光を取り戻したのです。