ワイン 百一話
ギリシア神話 3(Part 3)
2011/01/09 PART 01 | 02| 03| 04| 05
というのも、ジュピターには正妻ヘラがいました。セメレの妊娠を知ったヘラは嫉妬に狂い、策略をめぐらせます。ヘラはセメレに、本当に我が夫を愛しているのならば、彼に真の姿を見せてもらいなさい、あなたごときが彼の本当の姿を見せてもらえるはずはありませんよ、と挑発します。うかつにも、セメレは挑発に乗ってしまい、ジュピターに真の姿を見せて欲しいと懇願します。その結果、本物の神様であるジュピターを見てしまったセメレは、炎に包まれたとも消えてしまったとも書かれています。
これは大変と、セメレが死ぬ直前に、ジュピターは彼女の胎内から我が子を救い出します。それからどうした、と気になるところです。
なんと、ジュピターは自分の大腿を切り裂いて、そこに子供を押しこめて縫ってしまうのです。代理母などという認識は、当時にはなかったのでしょうか、まあ、やることがすごい。数ヶ月経ってから、ジュピターは子供を取りだして、セメレの姉妹に育てさせます。このときの子供がバッカスです。
バッカスはギリシアの北の土地からきた外来神とされ、彼が始めた狂信的な乱舞の祭儀はギリシアでは排斥されます。また、バッカスも神の一人なのですが、そうとは信じない人々によって迫害もされます。しかし、やがて彼の「踊る宗教」がギリシア全土に広まってゆくのです。当然ですが、ワインをしこたま飲んで踊るのです。
バッカスは巫女のマイナデスや半人半獣のサテュロスを従えて、ギリシア各地でぶどうの栽培とワインの造り方を教えます。そもそもワインの造りかたは簡単です。実ったぶどうを桶に入れて足で踏み潰し、放置しておくとぶどうの果汁は自然の酵母の働きでお酒になるものなのです。
この様子をギリシア人は壷絵にしてたくさん残しています。サテュロスの一人がぶどうを摘み、一人が桶の中でぶどうを踏むと、果汁は口元まで地面に埋まったピトスと呼ばれる壷に流れ落ちます。果汁が壷いっぱいになると蓋をして、土をかぶせて隠したそうです。
余計な心配ですが、発酵が始まると炭酸ガスが発生するので、蓋をしたままでは壷が高圧の炭酸ガスで破裂してしまいます。ですから、ピトスを土で覆って隠したとはいえ、必ず空気穴用に筒を差し込んでいたに違いありません。
これは、エジプトのアンフォラの絵を見ると、上の部分に四角い空気穴用の切れ込みがあることからもわかります。