ワイン 百一話
珍陀酒(ちんとしゅ) (Part 1)
2010/07/01 PART 01 | 02| 03| 04
映画やテレビの時代劇を見ていますと、まれにですが、ワインが画面にでてきます。時は鎖国の真っ只中、ところは花のお江戸はさる豪商の一室、今でいうところの都内某所ですね。
調度品として椅子とテーブルのセットがあり、さすがに座敷であぐらをかいてのワイン会という設定ではありません。手にしている盃は、ギヤマンでできた重々しい芸術品で、中に入っている液体は赤ワインのようです。
『あ〜、ご家老様、これは珍陀酒と呼ばれるものでございまして、遠くから海を渡って参りました、たいそう珍しい物でございます』と豪商が満面にいやらしい笑みをたたえながら、某藩の江戸家老に恩を着せている光景が目に浮かびます。横に見目麗しい乙女がはべっているか否かは、今回は別にしましょう。
家老が小声で『抜け荷のものであろうが・・・』と切り返すと、豪商がわざとらしく大声で『飛んでもございません、これは特別にご家老様のために、出島のオランダ商事館から特別に』と会話が続きます。
なぜか、ここで登場する顔ぶれには、悪役の豪商と悪者の江戸家老といった設定が多いように感じられるのは、私のひがみでしょうか。同じことなら、悪者ではなく、「鬼平」こと火盗改め長谷川平蔵に飲ませてやりたかったとか、大石蔵之介に飲ませたやりたかったなどとよく思います。
ところで、珍陀酒という言葉がポルトガル語のVinho Tinto(ヴィニョ・ティント=赤ワイン)から来ています。そしてポルトガル人が織田信長(1534-1582)に献上したときをもって、ワインが日本にはじめてもたらされた時期とされています。では、このときの赤ワインはどのような味だったのでしょうか。