ワイン 百一話
シャトー・フィジャック(Part 2)
朝からよいお天気の日でした。サン・テミリオンのホテルからタクシーに乗ると、4キロ先にあるシャトーまでは十分もかかりませんでした。
シャトー・フィジャックと書かれた門柱のある畑の入り口から、ワイナリー本体の敷地の入り口まで200mはあろうかという広い敷地が、目の当たりに広がります。取材するときには予習しますので、このワイナリーが40haと知っていました。しかし、目の前あるワイナリーは、なんとなくそれよりも広い感じがしました。いくつかワイナリーを見学していますと、広さの見当が付くものです。 |
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除梗した後、すぐには破砕せず、ベルトコンベアの上を移動させながら、人手をかけてぶどうを一粒一粒選別していました |
このとき、収穫がすんでいるはずの畑に、人が大勢出ていることに気づきました。
「まだ、収穫しているんだ〜」と思わず口から出ました。収穫しているのですから、ワインはまだ造る前です。今年の夏が暑かったので収穫はすでに済んでいるもの、と思い込んでいた私は、大いに慌てました。これでは、樽のワインなど、飲めるはずがありません。収穫しているのですから、発酵そのものが始まっていないのですね。やれやれ。
畑の中の入って収穫を見たいところですが、まずは、シャトー側に私たちの到着を告げなければなりません。私たちといいましたが、今回のボルドー訪問には、著者が校長をしている、レコール・デュ・ヴァンの講師であるご夫妻を誘っての取材旅行でした。
事務所に入ると、「東京からですね」と先方から先にいわれました。収穫の最中の訪問はあまり歓迎されないものですが、シャトー・フィジャックではそれも含めての収穫時期の忙しさなのだ、と考えているようです。
上品なご隠居さんが、「ムッシュー・バラモン(現在のシャトー・フィジャックのプレジデント)はいま畑に出ているから、少し私が案内して上げよう」と声をかけてくださいました。後から、この方は現社長の義父であり、このシャトーのオーナーである、ティエリ・マノンクール氏だったことを知ります。
「サン・テミリオンでもこのあたりは特に小石が多いのだが、この石は特に硬く、実はクリスタルなのだ」とのご隠居さんのご高説です。クリスタル?とは、水晶のはずです。まさかこの石が水晶とはとても思えないなぁ、などと不遜なことを考えておりますと、すかさず、「割って御覧なさい」と見透かされてしまいました。
そこで、石を重ねてガチンと割ると、割面に見えたものは、まごうことなき水晶の結晶でした。土壌による味の違いとは、このようなほんの少しの違いからできるのかも知れません。
ちなみに、この小石は氷河時代に現在のフランス中央山岳地帯から300kmにも及ぶ長旅で丸くなりながら、この地に来たのだそうです。