ワイン 百一話
オペラとワイン(Part 3)
2010/09/17 PART 01 | 02| 03| 04| 05| 06| 07| 08| 09| 10
マルツェミーノは存在した?
一八世紀のヨーロッパ宮廷楽士のモーツァルトは、初演された1787年よりも一世紀前にこのオペラの時代設定を持ってきています。
まず、作曲家のモーツァルトは一八世紀の人です。当時の上流階級の人はシャンパーニュが好き。今の曲も、別名「シャンパーニュの歌」。ならば、結論はシャンパーニュでいいのですが、そうは問屋がおろさないところがあります。といいますのは、モーツァルトのイメージにあるシャンパーニュは、フランス・シャンパーニュ地方で造られる発泡酒。なにしろ、彼が飲んでいた発泡酒は、本物のシャンパーニュであったはずです。
あの有名なシャンパーニュは、一七世紀後半にシャンパーニュ地方にあるオーヴィレール修道院に配属された修道士ドン・ペリニョンが改良に改良を加え、苦心してしてやっと編み出した製法である話はすでにした通りです。
ということですから、鉄道のない一七世紀のセビリアには、マルツェミーノもシャンパーニュも、まず、なかったかと思われます。
ところで舞台になったセヴィリアは、南スペインにあるジブラルタル海峡も近い町です。私はセビリアには、四年前の大晦日にいったことがありますが、街路樹がオレンジの樹でして、熟した果実が沢山なっていました。実に暖かいというか、真冬でも暖かいところです。冬の夜でも、結構むしましたから、クーラーのない当時の夏では舞踏会などはとても無理です。
ついでのことながら、歌詞の内容を見た範囲では、舞台設定の季節ははっきりしません。
「セヴィリアの理髪師」という曲があります。セビリアでしみじみと、冬だのにこの暖かさでは夏なんか大変です。ウン、きっと、みんな髪を短くしていたいに違いない。だから「散髪屋さんが人気者なんだ〜」などと勝手に想像していました。
話をお酒に戻しますと、あの暖かいセビリアでは、仮に初めてフランスから輸入されたシャンパーニュの試作品が一本あったとしても、冷蔵庫のない時代にそれを保存するのは並大抵なことではなかったでしょう。いかに、お金持ちの貴族であっても、村の娘にじゃんじゃん飲ませるわけにはゆきません。