ワイン 百一話
オペラとワイン(Part 9)
2010/09/23 PART 01 | 02| 03| 04| 05| 06| 07| 08| 09| 10
フランスのドニゼッティ(1797-1848)が一八三二年に作曲した愛の妙薬は、北スペイン・バスク地方の村を舞台とした全二幕の喜劇です。気まぐれな地主の娘アディーナは、若い農夫ネモリーノが自分を愛しているのを知りながら、ベルコーレ軍曹のプロポーズを受けます。
気の弱い、ネモリーノはすっかり悲観してしまいます。それを見たいかさま薬売りのドゥルカマーラは「これは愛の妙薬だから、呑むと彼女が君になびくよ」といって安いワインを売りつけます。
中身を知らないというか、大枚をはたいてドゥルカマーラから買った薬の効き目を信じるネモリーノは、「妙薬」を飲んだことで気持ちが高揚してきます。
普段は内気なネモリーノも、「愛の妙薬」のおかげで気分が大層よくなり、アディーナの前でもおどおどせずに振る舞います。「ララララ・ラッラッラ」と歌い出し、その快活さのおかげで、念願かなってアディーナの愛を得ることがでるというストーリーです。ついでのことに、ネモリーノは思いがけない遺産も手にして大満足。
この作品には、ワインは特定されていません。ですが、作曲家がフランス人であるということと、舞台設定がバスク地方であることから、何を飲んだのかを推測してみました。
まず、現在あるスペインワインの最高級品は、リオハ・ワインです。リオハ・ワインがよい理由の一つに、彼らの祖先の中に、ボルドーから移り住んだ優れたワインメーカーたちがいたからです。
歴史的な事実として、一八六四年に南フランスから始まった害虫(フィロキセラ)の被害は、またたくまに広がり、欧州全土のワイン造りに壊滅的なダメージを与えました。このとき、再起不能に陥ったボルドーの生産者の中には、新天地を求めてスペインに移った人達がいます。ボルドーからピレネ−山脈を超えて南下すると、そこにはリオハがありまた。
ところで、この喜劇の時代背景は一八三二年ですから、まだフィロキセラの被害は出ていません。どうやらボルドーのワインメーカー達は、まだもといたところから動いていないようです。
となると、フランス人である作曲家のイメージにある惚れ薬(ワイン)は、多分、ボルドー・ワインだったはずです。