ワイン 百一話
ギリシア神話 2(Part 2)
2010/12/26 PART 01 | 02| 03| 04| 05
ブルゴーニュの名門、ボーヌ市にあるルイ・ジャドー社では、天使の顔に似たマークを商標にしています。ワインをたるに入れて熟成させていると、必ず目減りしますが、その目減り分は「天使の取り分」と呼ばれます。現にアンジェルスと呼ばれるワインがボルドーにありますし、天使は幸せの使いのはずです。
そこで、私はルイ・ジャドーを訪問したとき、正面玄関に埋めこまれていた石の彫刻を見て「これは天使ですよね」とにっこりして言ったのです。すると、案内してくれた醸造家の女性は、主語も動詞も副詞もなく、感情を全く出さずに「バキュス」と答えてくれました。多分彼女の頭の中には、冠詞も終止符もなかったに違いありません。
ところ変わってボルドーはポイヤック村にあるロスチャイルド家所有のワイン、シャトー・ダルマイヤックのラベルを見ると、月桂樹の葉でつくった冠をつけた若者バッカスが、ワインのボトルを片手に踊っている様子が描かれています。とても神様には見えません。
「ギリシア精神は人間主義」と言われるように、彫刻にしろ、絵にしろ、どのバッカスを見ても、およそ神というイメージからは程遠いものです。
ところで、そのバッカスもまたジュピターの子供です。ジュピターとは天上界最高の神であり、全世界の支配者であり、全能の神であり、神々と人間の父なのです。
それは、ゼウスのことではないかと感じた人はエライ。なにを言ってるのだ、ジュピターはユピテルともいわれ、ゼウスと同一の神であるのは常識だと言える人は、もうたいしたものです。著者はギリシア神話の神々の別名は、何度覚えてもどうにも大脳皮質に留まり続けません。
で、そのジュピターは自らを白い牡牛に姿をかえてフェニキアの王女エウロペ(後にヨウロペ→ヨーロッパ大陸になります)を誘拐したり、黄金の雨に身を変えてアルゴスの王女ダナエの胎内に入ったり、白鳥に身を変えてスパルタの王妃レダに近づいたりします。もうなんでもありでして、そこで必ず子供が生まれます。ついでのことに美少年ガニュメデスにまで手をつけますので、もう…。
そしてあるとき、人間に姿をかえて、テバイ市の創建者カドモスの娘セメレを誘拐します。できた子供がバッカスなのですが、彼がこの世に生まれるまでには、多くの紆余曲折があり、ことはスムーズには行きませんでした。