ワイン 百一話
アルベール・グリヴォー 3(Part 3)
「なぜムルソーにはグラン・クリュがないのですか」と聞きしまた。すると、「AOC (原産地呼称)制度が出来るとき、私たちのお祖父さんの代の人たちが、《特級にしてもらわなくともわしらのワインは旨いから売れる。特級などにされては、国からの制約が多くなり気分が悪い》」というノリの結論を出したらしいのですよ」とのコトでした。これは、どうやら事実のようです。参考までにムルソーのプルミエ・クリュを書き留めておきます。見つけられたら是非味わってください。代表的なものにLes Perrièresレ・ペリエール、Les Charmesレ・シャルム、Les Genevrièresレ・ジュヌヴリエール、Les Porusotsレ・ポルゾー、Les Gottes d’Orレ・グット・ドール、Les Bouchèresレ・ブシェール、Les Santenots Blancsレ・ソントノ・ブランなどがあります。
グリヴォー家がムルソーでワイン造りを始めたのは、十九世紀後半。一八七九年には、ムルソーでも最高級の畑であるクロ・ド・ペリエールを入手しています。クロ・ド・ペリエールのクロとは、石垣で囲まれたという意味です。この一ヘクタールの畑からは、まさに特級に値するワインが出来ます。そして、クロ・ド・ペリエールはグリヴォー社が単独で所有しています。 |
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手前の畑はムルソー・シャルムでグリヴォー家がオスピス・ド・ボーヌに寄進した畑。遠くに見える集落がムルソー村です。 |
このような場合、グリヴォーはクロ・ド・ペリエールのモノポールである、と表現されます。
グリヴォー家はオスピス・ド・ボーヌにムルソー・シャルムを寄進したことでも有名です。
テイスティングのために、すでに十本以上のワインが用意されていました。なんという歓迎振りでしょうか。水平テイスティングと垂直テイスティングをしてくださるようです。
皆さんご存じのように、水平テイスティングとは同じ年の畑が異なるワインの利き酒、垂直テイスティングとは同じ畑のワインで生産年が異なるものの利き酒です。
テイスティングでは味わった後は、飲み込まないで吐き出すのが原則です。ですが、ブルゴーニュでも南の方にあるこの辺りのワインは、結構アルコール度数が高いので、飲み込まないでも少しずつは吸収していますので、そのうちに酔っ払ってしまいます。
真剣なテイスティングがいくつか進んだとき、確かな七つ目だったと思います。ワインを注がれたグラスを鼻に近づけた瞬間、私は「オッ!」と声をあげてしまいました。そこでフリーズです。
グリヴォーのオーナーは私の顔を見て、嬉しそうな表情で得意げでもありました。声は出しませんでしたが、(分かりましたね)と言っているようでした。
三年前のムルソー・クロ・ド・ペリエールでした。