ワイン 百一話
アルベール・グリヴォー 2(Part 2)
私たちの車で一緒に戻りましょうか、とお勧めしましたが、「歩いたほうが健康によいわよ」といわれてしまいました。どう見ても、オーナー夫人です。逆らいませんでした。
おしゃべりしながら歩くこと八分。着いたところは、つい先ほどこのあたりで間違いないはずだと確信していた、まさにその場所でした。看板も、樽とか積み上げたワインの瓶とか、ワイナリーらしいものは何一つありませんでした。個人宅の表札もありません。「名前が分かると誰彼なしに人が訪ねて来るから、相当昔から表札もはずしてあるの」とのこと。 |
||
真剣なやりとりが繰り返されたテイスティングでした。 |
「あなたのように、前を通り過ぎてしまう人ばかりよ」と屈託がありません。恐れ入りました。建物の中に入ると御当主が「迷いましたか」と笑いながら出てこられました。
さっそく地下の熟成庫に案内して下さいました。まずは、テイスティングです。これは嬉しい限りです。はじまる前から、このあと歩いて階段が上れるだろうかと心配です。
地下の熟成庫は古色蒼然。少なくとも百年以上前のものと思われる、木製の醸造器具や農機具が飾られていました。そして、その横には品評会で金賞を受けた記念のボトルやワイン騎士団の推薦を受けた素晴らしいワインがずらっと並べられています。
グリヴォーはお祖父さんのお祖父さんの代からワインの造り方は変えていないよ、というコンセプト。オーナーご夫妻のわが道を行く、よい物を少しだけ造るというこのスタイルが愛好家からの信頼につながっています。
ムルソー村で産出するワインは、どれをとっても素晴らしいワインばかり。ですが、グラン・クリュ(特級)と呼ばれるクラスが存在しません。とはいえ、ムルソーのプルミエ・クリュ(一級)の中には、他のブルゴーニュ・ワインのグラン・クリュと同等の価格(評価)で取引されている物が少なくありません。