ワイン 百一話
シャトー・キルヴァン(Part 1)
キルヴァンへの訪問は、ずいぶん前から楽しみにしていました。キルヴァンのオーナー一族であるシレールSchyler氏とは、東京で二度ばかり食卓を共にしたことがあります。シレールとはドイツ語読みではシーラーとなり、私が顔見知りの彼の名前はヤンYannといい、まさにゲルマン系の名前です。
残念なことに、ヤンとは今回は会えそうにありません。彼の妹のナタリー・シレールさんから、ヤンは外国に出かけている時期でワイナリーを留守にしますので、私が応対しますという手紙を貰っていました。 |
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ついに出会えた、メドックでのカベルネ・ソーヴィニヨン種の収穫 |
キルヴァンに近づくに連れて、少し空模様が怪しくなってきました。ですが、収穫はもうとっくの昔に終わっているはずですので、心配してあげることもありません。
シャトーに到着し、ボンジュールと声をかけるのですが、誰も迎えに出てきてくれません。約束の時間に間違いはないのです。困ったなと思いながら、なんとなく人声がする庭のほうに歩いてゆき・・・・アッ!と声を上げてしまいました。なんと、収穫の真っ最中なのです。
畑のすぐ傍に立ってキョロキョロしていると、一目でそれと分かる女性が、ニコニコしながら近づいてきました。パンフレットにも写真が載っている、ナタリーです。
雲行きが怪しくなってきた空を見上げて、「まずはお仕事(収穫)をお続けください、写真を撮らせて頂いて宜しいでしょうか」と訊ね、「もちろん、どうぞ、どうぞ」と同意を得て、畑の中に入りました。
よく考えてみると、ぶどうの収穫を間近に見るのは、初めてのことでした。これまで、収穫している有様を道端から見たことは何度かありますが、畑の中に入ってじっくりと見たことは、一度もありませんでした。
通常、ぶどう畑を見学するときには、ゴム長に履き替えるものです。というのも、畑は土がとても軟らかく、足がめり込んでしまいます。ですが、この年のボルドーは天候がとてもよいことから、畑は乾燥していて、革靴のままで畑の中に入れました。
15、6人の収穫人が、かがみこんでブドウの房をひとつづつ、茎のところから切り取っていました。そして、未熟な部分や、傷んだぶどうが混じっていると、それをハサミで丁寧に切り取っていました。