ワイン 百一話
シャトー・キルヴァン(Part 2)
摘んだブドウの房は、まず片手で持てるような小さな籠の中に入れ、それが山盛りになると、背中に大きな黄緑色のプラスチック製のカゴを背負っている、別の人(運び人)に声をかけます。大きなカゴがやって来ると、手持ちの籠の中身を、その中に入れるのです。大きなカゴを背負っている人は、道端に止めたトラクターのところまで行き、深くお辞儀をするような姿勢になって、ベルトコンベアーにぶどうを空けていました。もちろん彼は、直ぐに、走って畑に戻らなければなりません。お〜い、なんとか〜、と声がかかっていました。空模様はますます怪しくなってきました。ナタリーが空を見上げます。トラクターの上には、ベルトコンベアーを挟んで二人ずつ人が向かい合って立って待機していました。コンベアーの上を移動するぶどうの房を選別するのです。実に手際のよい仕事振りでした。さすがに房ごと破棄しなければならないような悪いぶどうなどありません。しかし畑で切り取ったときに見逃した、傷んだ部分があると、それを取り除いていました。
ベルトコンベアは止まることなく動き続けます。選別する人の手も、休まることはありません。4人の「確かな目」をクリアしたぶどうの房は、運搬用のトラックの荷台にどんどん積み込まれます。 |
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畑の畦道に止めたトレーラーの上で行われる最初の選別 |
ポツン、ときました。雨です!
「急げ〜、雨が降るぞー」と畑の人たちが互いに声を掛け合います。
ウ〜ン、すばらしい天候に恵まれて、折角今日まで無事にきたのに、ここで降られてはぶどうは一大事です。一人の訪問者に過ぎない私も、悲壮な気持ちになってきました。
ナタリーの顔が、さすがに少し不安げでした。
収穫をぎりぎりまで待ったぶどうの実は、皮がはちきれんばかりに中身が充実しています。そのような状態のぶどうに雨が直接かかると、果実が雨を吸い込んで膨張することで、皮がはじけて破れてしまうのです。皮が破れると、そこから糖度の高い果汁が染み出しますので、あっという間に果実は、酸化と細菌による腐敗が始まってしまいます。
いくらなんでも、そんなに急には悪くならないだろう、と思いたいのですが、果実の熟成もこのレベルにまでくると、それも、極め付け上級なワインの品質を基準にすると、皮の破けたぶどうは「使い物にならない」ほど質が低下するのです。