ワイン 百一話
シャトー・アンジェリュス(Part 3)
見るからに気さくなグルニエ氏は、私の矢継ぎ早の質問にどんどんサラッと答えてくれます。知識を再確認しながら醸造所内を歩いていて、ふと気になったことがありました。あまりにも、樽の色が美しいのです。
何のことかといいますと、赤ワインを熟成させるために、木の樽を使うことがあります。そのとき、赤ワインはずっと同じ樽の中でほっておかれるのではなく、たとえばひと月に一度とか、三ヶ月に一度、中のワインを別の樽に移し変えるのです。 |
||
見事に美しい樽のボルドー・レッドとは、まさに滓を塗っていたのである。 |
この移し変えの操作をするときに、赤ワインは当然多少ともこぼれます。そして、こぼれた赤ワインのために、樽の真ん中の部分にだけが赤く染められます。
ですから、ワイナリーを見学すると、真ん中の部分が赤く染まっている樽が整然と並べられているのを見ることができます。心豊かになる、とても魅力的な光景です。
普通は、その染まり方にはいささかのムラがあります。
ですが、シャトー・アンジュリュスの樽はとても美しく染まっています。よく見ると、まだ使ってないような樽まで見事に美しいのです。
「どうしてあんなに美しいのですか?」と思わず訊ねてしまいました。「種明かししようか」といいながら、グルニエ氏は樽の作業場に案内してくれました。
なんと、赤い染料で樽の真ん中を塗っているのです。これには驚きました。
いうまでもなく、その赤い染料は赤ワインを造るときに出る「滓」でした。それにしても、見事な色です。食事のときに赤ワインをこぼすと、そのあとなかなか色が取れません。その本家本元を、真新しい木の樽に塗りこんでいるのでした。
シャトー・データーです。栽培面積は23.4haヘクタール。栽培密度は1ヘクタール当たり6,500〜7,000本。ぶどうの樹の平均樹齢は35年。ワインのブレンド比率 (品種別の栽培面積)はメルロー50%、カベルネ・フラン47%、カベルネ・ソーヴィニヨン3%。除梗率100%。発酵槽の種類はステンレス・タンク。発酵温度は28〜32℃。発酵期間12日間。醸し期間は2〜3週間。樽熟成期間は18〜22ヶ月。年間総生産量は11万本。セカンド・ワイン名はカリヨン・ダンジェリュス。