ワイン 百一話
オリヴィエ・ルフレーヴ 2(Part 2)
「この地に十年近くいるけれど、一度もそのようなことを気にかけたことはなかったよ」と彼。もちろん、彼はモンラッシェの畑が二十近い所有者によって、分割されていることは、百も承知です。それでも二つの村の境界線については、考えたこともなかったそうでした。
車は、やっと通れるくらいに狭い凸凹道を大揺れしながら進みます。「ここかなぁー、違うかなぁー」と心もとない限りです。二人で詳細な地図を見ながら鳩首会談を重ねた結果、写真の場所が境界と決まりました。モンラッシェの畑の中には、二つの村の境界を示す石垣も大きな看板も、何もありませんでした。 |
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向かって右側がピュリニー・モンラッシェ村、左側がシャサーニュ・モンラッシェ村に属します。 |
考えてみれば、当然かも知れません。もともと美味しいワインができる極上等の畑があり、それを二つの村が分け合ったのでしょうから。それでも、境界線の上にたって、私は幸せでした。写真は特級ワインを生み出すモンラッシェの畑ですが、向かって右側がピュリニー・モンラッシェ村に属し、左側がシャサーニュ・モンラッシェ村に属します。
畑から戻り醸造所に入ると、オリヴィエ・ルフレーヴ社のご当主が出迎えて下さいました。髪は白いですが、私より若いはずです。一見穏やかでニコニコした人でしたが、どんどん話すから質問があれば何でも訊いて下さい、と実に闊達です。
このオリヴィエ・ルフレーヴで大層驚いたことがありました。ごく少量とはいえ、フランス原産ではない樽を試験的に使っているのです!これには本当に驚きました。後日、ご紹介するのですが、かの有名なルイ・ラトゥール社では、いまだに醸造過程のある場面で、人間が樽の中に入って足で踏む作業を続けています。いわく、「百年前からこうやって美味しいワインが出来てきたのですから、なんで今更やり方を変える必要があるのですか。」もともとフランス人は保守的ですから、私の頭の中ではルイ・ラトゥール社の考え方が典型的と思っていました。
それが、なんと新たな挑戦です。ひょっとすると、飛んでもない素晴らしい結果が出るかも知れません。とはいえ、やはり温故知新だねという話になることもあり得ます。