ワイン 百一話
ルイ・ジャドー1(Part 1)
大きなワイン・メーカーを訪問しました。ブルゴーニュ三大Lのひとつ、ルイ・ジャドー社です。この会社は、町中にありますので、所有する郊外にある畑の見学には車が必要です。頼めば喜んでそこまで連れていってくれるのですが、今日は工場見学に専念することとしました。
朝九時の約束に、三十分も早く着いてしまうと、誰もいません。外で待つことにしました。十月のブルゴーニュの朝は、日本の晩秋の肌寒さです。タクシーを降りて、すぐに目に入ったものがありました。駐車場に積み上げられている赤い箱にどっさり入っている、う〜ん、これは間違いなく絞りかすですね。ぶどうの皮と梗が見えます。 |
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これが絞りかすです |
十分にプレスされてはいましたが、まだ湿り気があるようです。一つつまんで鼻を近づけると、赤ワインの香りがしました。
ワインを勉強し始めた頃、赤ワインの造り方について次のように習います。《収穫したぶどうは、まず梗を取り除いてから、果実を少し押しつぶし、タンクにいれて発酵させる。》この操作は、除梗・破砕工程といい、ワイン造りの基本です。しかし、ワイン学も習熟するに従い、実は、梗は必ず常に取り除くものではなく、梗ごと発酵することがあるのですよ、と修正がかかります。
なるほど、ルイ・ジャドーの絞り粕は、梗も入っていますので、修正版の方です。梗には苦味というか、エグミも含まれています。ですから、ボルドー地方のカベルネ・ソーヴィニヨン種などでワインを造るときには、梗を十分に取り除いておかないと、出来たワインが渋すぎるのです。しかし、ブルゴーニュのピノ・ノワール種では、梗も含めて発酵することで、ワインの味わいがよりよくなるのです。なるほど。
いま手にしているぶどうの品種はピノ・ノワールかな、などと一人で愉しんでいましたら、「ボン・ジュール」と後ろから声をかけられました。振り返ると、ブルゾンを着た30なかばの女性がニコニコして立っています。「ドクター・ウメダですね」といいながら握手を求められては、こちらから自己紹介するまでもありません。彼女は醸造責任者の一人で、今日は説明係をします、とのことでした。