ワイン 百一話
シモン・ビーズ3(Part 3)
それはそうと、シモン・ビーズのワインは日本ではなかなか買えません。丁寧に造ってあり、生産量が少なくて美味しい。そのようなワインは必然的に手に入りにくくなるものですが、ここのワインもそのひとつです。高価過ぎて買えないのではないのですが、国内ではきわめて入手が困難なのです。
そのことを話すと、三代目はフランス人らしいゼスチャーで肩をすくめて、それならばここで買って帰りなさいよ、とひとこと。マグナムを一本買うことにしました。私たちが地下の酒蔵でテイスティングをしていると、四代目が舌足らずの言葉でしきりになにか喋っています。慎重に訊いていると何やらフランス語のようでした。 |
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ハムとパセリのゼリー寄せとショレイ・レ・ボーヌの相性は最高でした |
この位の年からワイナリーの仕事を見ておれば、その道の超一流の専門家になれるに違いありません。
お昼にしましょうと、大和撫子が声をかけてくれました。四代目は、ママとは日本語で話していました。なるほど、このようにしてバイランゲッジが育つのだなと感動です。
醸造所と同じ敷地の中にあるご自宅の食卓には、なんと手作りのジャンボン・ペルシエ(ハムとパセリのゼリー寄せ)と大きな鶏のローストが用意されていました。そうでした、この辺りは地鶏の名産地でした。
その家で造ったワイン、若奥様の手料理、フランス語と日本語がゴチャゴチャに飛び交う食卓。至福のひとときでした。
全くの蛇足ですが、このようなときの会話では何語を使うか、とても気を使います。大和撫子と私が話すときは、ご主人が側にいる状況ではフランス語を使い、彼が席を外しているときには日本語になります。子供は、そばにいて両方とも理解しています。話の内容が、とても複雑になったときとか、日本語のニュワンスが大切な内容の場合には、ご主人に「済みません、少し日本語で喋ります」と断ってから大和言葉で喋るのです。