ワイン 百一話
ルイ・ジャドー3(Part 3)
おかげで私は貴重な場面に遭遇できました。プレスする前の皮が、掻き出されて目の前に出てきました。手に取ると、駐車場で見つけたものよりも、水分を含んでいます。ボトボトに濡れている皮なのです。もし、ガバット手掴みにして握り込めば、指の間からワインが搾り出されるに違いありません。
見ていると、掻き出されたボトボトの皮で一杯になった赤い箱は、リフトで「同一半径の円の外」に置かれてある、大きな器械のところまで運ばれて行きました。プレス器でした。プレス器で圧搾されたワインは、すでにあるフリーランワインと呼ばれるさらっとしたワインと混ぜて、味わいのバランスのよい製品になります。 |
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女性醸造家の説明は実に明快でよく分かりました |
このプレス器で硬く硬く絞られた後の絞り粕、それが先程、駐車場にあった赤い箱の中味だったのです。
去年のワインのテイスティングをしましょう、ということで地下のカーヴに。ルイ・ジャドーのマークの入った新樽がずらっと並び、壮観です。テイスティングの順番は、初めはカジュアルな白ワイン、徐々に格を上げて行き、中〜高級白ワインにたどり着きます。その後は、カジュアルな赤ワイン、中級の赤ワインと進んで、場合によってはここで、高級赤ワインの前にコルトン・シャルルマーニュとかモンラシェといった超高級白ワインに戻ることがあります。白ワインの骨格のしっかりしたものは、並みの赤ワインよりもパワフルなのです。
スポイドでワインが吸い上げられグラスに注がれました。一年間の樽熟成がそろそろ終了する頃です。暗い地下であるにもかかわらず、一目で分かる美しいルビー色でした。香りをとるとスミレ、プラム、ウメの香りが豊富です。口に含むと、当然ですが、まだ若いワインらしくタンニンが落ちいていないので荒々しい感じがします。それでも、将来に大きな期待が持てる力強いワインでした。
ルイ・ジャドーのラベルには人の顔が描かれています。ルイ・ジャドーのシンボル・マークです。
「これは、エンジェルですか」と訊きました。ワインを樽で保存していると、少しずつ蒸発してワインが目減りします。「天使の取り分」と呼ばれるものです。また、レ・ザンジェル(エンゼルたち)と呼ばれるワインもあります。ですから、私の質問はそうそう的が外れているのではないつもりでした。
「バキュス」それが彼女の答えでした。フランス語のバキュスとは、酒の神様「バッカス」でした。