ワイン 百一話
ルイ・ラトゥール3(Part 3)
発酵というものは、糖分がアルコールと炭酸ガスに変化することなのです。ですから、発酵中の桶の中で倒れては、生命に危機がおよぶ等という生やさしい話ではありません。
急性炭酸ガス中毒でその場で絶命します。というところで、それにも関わらず、ルイ・ラトゥール社では足で踏んでいました。では、安全の確保はどうなっていたのかといいますと、作業しているスタッフはみんなハーネスを付けており、そのハーネスに取り付けられたワイヤーが天井の滑車に繋がっていました。 |
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綺羅星のごときワインを、次から次へとテイスティングさせて貰えるのはとてもとても幸せなことです。 |
そして、巨大な扇風機が沢山回っていて、炭酸ガス濃度が自動的に測定されており、危険な濃度に達する前に、さらに巨大な換気扇が全開する仕組みでした。
当然のことですが、一つの桶に1人ずつの監視スタッフが張り付いており、万一、転倒した場合にはワイヤー引き上げのスイッチを押す態勢が取られていました。
呆れるほど旧式な作業の手順と、徹底した安全管理をそこに見ました。
ラボと書かれた研究室にも案内してくれました。「今できている最中のワインですよ、これが一昨日のもの、これが今日のもの、どうです、おなじ桶のワインですが味が違いますでしょう。」イヤイヤ、醸造中のワインをテイスティングさせてもらえるとは予期していませんでしたので、大感激ものでした。しかし、完成していない発酵途中のワインの奇妙な味といったら、もう、大変なものでした。実に貴重な経験でした。
研究所の中に貼られてあった、一枚の白黒写真に目が吸い寄せられました。屈強な男が三人横に並んで、肩を組んで、先ほど見ていた果帽を踏んでいるのです。
ところで、この三人は三人とも裸でした。ハーネスなどといった「ハイカラ」なものは付けていません。本物の裸でした。もう、目がテンでした。ちなみに写真の日付は1970年代と、「つい先頃」の作業風景でした。