ワイン 百一話
ルイ・ジャドー2(Part 2)
ルイ・ジャドー社の中に入って、オッ、と圧倒されました。目の前にあるものは、暖かく光り輝く円形の醸造所でした。普通、ステンレス製の発酵槽は、どちらかというと白く冷たく輝いているものです。それが、やや赤みを帯びていました。天井の採光に工夫があるのでしょうが、発酵槽の素材に銅が混じっているようでした。暖かい感じでした。
円形の醸造所はボルドーでも見たことがあります。同一半径の円周上に桶を配置しておくと、円の中心に設置した器械のアームを動かしての作業が合理的に出来ます。発酵には、ステンレスと木の桶とが併用されていました。ぶどうの種類や強さによって使い分けるのですよ、とのことでした。なるほど、なるほど、と感心していると、突然、「ジャン・ピエール、待って!」と大声をあげて彼女が駆け出しました。 |
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発酵終了直後のタンクの中には炭酸ガスが充満しています。そこに顔を突っ込もうとした若い男性でした。 |
何事かと、その後を足早について行くと、一人の青年スタッフが発酵槽から「果帽」を取り出しているところでした。熊手で掻き出しているものは、発酵が終了し、ワインが引き抜かれた後のぶどうの皮・梗・種です。
熊手の中味は、まだワインが十分に含まれている皮でして、絞り粕ではありません。絞る前の状態です。今から、これをプレス器にかけて、濃度の濃い、タンニン分の多いプレス・ワインをとり出すのです。
発酵が終了したばかりということは、まだ一部に発酵が続いていることをも物語ります。出来たばかりのお酒を試飲した経験がある人ならば、新酒は口に含むとピリピリすることを御存知でしょう。あのピリピリは、実は炭酸ガスなのです。
そうなのです、発酵槽から皮を取り出しているときには、発酵槽の中には炭酸ガスが充満しているので大層危険です。しかるにこの青年は、中をよく見ようと、取り出し口に近づいて、顔を中に突っ込まんばかりの姿勢で作業をはじめたのです。それを見た醸造家が慌てて飛び出したのは当然でした。
「もっと後ろに下がって、手を伸ばして、そのための熊手でしょうが!」と彼女は恐い顔をして怒っておりました。その通りです。