ワイン 百一話
シモン・ビーズ1(Part 1)
ワインの勉強をはじめた頃、コート・ド・ボーヌ地区に似通った名前の村がいくつかあるので悩まされます。
その最たるものは、シャサーニュ・モンラッシェ村とピュリニー・モンラッシェ村ですが、ボーヌ市からすこし北にもサヴィニ・レ・ボーヌという名前の村とショレイ・レ・ボーヌという名前の村が近接しています。どちらかの名前を変えて欲しいところですが、そうはゆきません。そのうちのひとつ、サヴィニ・レ・ボーヌ村が今日の目的地です。 |
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ワイナリーなのですが、ビーズ家のご自宅ですね。 |
ボーヌのホテルからはこれまでで一番近い目的地です。となると、わざわざ前日から予約をしておいて、それで行き先が近距離では運転手が不機嫌になります。どこの国でも同じです。朝、ホテルの前に停まっていたタクシーに乗りました。
例のごとく、タクシーの運転手はワイナリーの所在地など知りません。それでもサヴィニ・レ・ボーヌ村にはすぐに着きました。いつもならば、ここで歩いている人に「済みませ〜ん」と訊く訳です。幸いなことに、シモン・ビーズと書かれたそのものズバリの矢印に行き当たりました。ブドウ畑に面して、石の壁垣で囲まれた醸造所というよりも、敷地の広い個人の家といった感じの一角です。
鉄柵製の瀟洒でヨーロッパらしい門構えが魅力的なシモン・ビーズ家は、小さいながらも、とてもしっかりした醸造家の家系です。ここのワインは、なかなか手に入りにくいので有名です。
タクシーのドアが閉まる音が聞こえたのでしょう、ベルを押すまでもなく「あ、先生、お待ちしていました」と日本語が聞こえました。そうなのです、このワイナリーには日本人がいるのです。しかも、この名家の若奥様が日本人女性。フランスの著名な蔵元にお嫁入りした大和撫子は、ブルゴーニュでも注目の的でした。
「ボンジュール」とご主人が現れました。背の高い、ほっそりしたこの若者は、畑仕事で見事に日焼けしています。第三代目のご当主です。彼のあとからトコトコと男の子がついてきました。確か四歳の男の子と、二歳前の女の子がいたはずです。「これが四代目です」と分かりやすい説明でした。