ワイン 百一話
ルイ・ラトゥール2(Part 2)
ここではブドウを収穫すると、自然の酵母の働きをかりて発酵させます。発酵が始まると、ブドウの皮と種はワインの上に層をなして、あたかも蓋をしたように留まります。この皮などの層は、果帽と呼ばれるものですが、果帽をそのままにしておいてはワインに色が付きません。皮のエッセンスがワインの中に滲み出てきません。そこで、この果帽を『上から押してワインの中に突き崩す作業』が必要です。その作業のために、多くの醸造所では器械を用いています。
3回目に訪問したときのことです。ちょうど、発酵が終わりかけている絶好のタイミングでした。ワイナリーは超多忙の真最中で、原則として訪問者はお断りの時期でした。しかし、一度はその時期に訪問したかったことと、私がワインの騎士に叙位されるためにブルゴーニュを訪問することを伝え、その上で醸造所にも入りたいといいましたので、受け入れてもらえたのでした。 |
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熟成庫で眠る古いボトルには見事に白いカビが生えていました。 |
目の前で、果帽をワインの中に突き崩すというか、押し込む作業をしていました。なんと、大の男が桶の中に入り、太股まで果帽につかり、足で懸命に押しているのです。これには、もう、驚きを超えて感動しました。
いかに、百年前からそうしているといっても、いまだに足で踏む作業が、当然のように行われていたのです。案内してくれている青年いわく、「あの作業は、このワイナリーに勤務する人間は、必ず一度は体験させられるのですが、もう、足は痛いし、腰は痛くなるし、ものすごく疲れます」。
ときどき、ワインの収穫祭などで、若く見目麗しいお嬢さん方がブドウを踏んでいるパフォーマンスがありますが、あれは、あくまでもお祭りの話。もし、本気でブドウを踏むとなると、ものすごい力が必要なのです。ブドウを一房だけならば、片手でつぶせます。しかし、それが50センチも積み上げられたもので、すべてを足で踏みつぶすとなると、容易なことではありません。まず、まっすぐに立っていることだけでも一苦労です。
エジプトのピラミッドの壁画のなかで、若者が5人並んでブドウを足で踏んでいる様子を見ることができます。彼らは、倒れないように、電車のつり革のようなものに捕まっています。
お祭りの時のパフォーマンスは単なるお遊びですが、実際にポートワインを造るときにも足で踏むことがあります。その時には、作業する人が倒れないように、二人が向かい合って相手の肩を持ってバランスを取ります。もしも倒れたら、どうなると思いますか。ずぶ濡れで、その上、赤ワインに染まって大変でしょうねぇ、等という甘いものではありません。