ワイン 百一話
シモン・ビーズ2(Part 2)
地下の醸造所に入ると、大きな楕円形の木で出来た発酵槽がずらりと並んでいます。
発酵中の温度調整がしにくい木製の樽を使うのは、ワインに限らず酒造りの作業としては大層面倒なはずです。それにもかかわらず、ステンレススチール製の発酵槽がはやりの昨今、頑固に木製を使っているところが少なくありません。いつだったか、朝の連続テレビ・ドラマで清酒造りのシーンがありました。 |
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三代目について実習中の(?)四代目です |
発酵中の酒の温度が上がりすぎたため、発酵が停止してしまう危機に直面します。杜氏の命令一下、酒蔵にいた全員が大急ぎで外に飛び出し、雪をかき集めて発酵槽の周りに貼り付けるのです。雪の冷たさで発酵槽全体の温度を下がり、ほっと一息つくのですが、その間の緊張が画面を通して伝わり、テレビの中のお芝居とはいえハラハラさせられます。
清酒であろうが、ワインであろうが発酵することで熱が出ることには違いありません。そこで温度管理が容易で、メインテナンスもしやすいステンレススチール製がトレンドになっています。にもかかわらず多くのワインの生産者は、まだ木製の樽を使っているのです。
彼らの主張は明確です。百年以上前からこの方法でやってきていて、それで美味しいワインが出来るのですから、いまさらやり方を変える必要性など何もありません。ハイ、恐れ入ります。
シモン・ビーズは当然のこととはいえ、村の名前がついた赤ワインのサヴィニ・レ・ボーヌが有名です。8年間熟成したサヴィニ・レ・ボーヌ(赤)をテイスティングさせてもらえました。
さすがに、このワイナリーの顔である、しかも8年間も寝かせたワインは、一言で表現すると、美味しい。外観は澄んだルビー色で美しく、グラスを少し斜めに持つと、ワインの縁にオレンジ色がわずかに見えます。このオレンジ色は熟成が始まっていることを示しています。
グラスに鼻を近づけて香りを利くと、香りは豊富で力強く、プラム、梅、紅茶の香りが渾然一体となって心地よく、飲む前から幸せな気分になります。口に含むと、ワインは舌の上を滑らかに転がり、口いっぱいに広がる酸は豊富でしっかりとしており、きめのこまかい落ち着いたタンニン分としっかりしたアルコール分が、飲み手にパワーをもたらしてくれます。