ワイン 百一話
シャブリじゃない?(Part 1)
「これはシャブリじゃないよ」と中年の男の声。
ヒョットすると、危ないんじゃないかな、そう思っていたとおりの展開でした。ときは客室乗務員CAがまだスチュワーデスと呼ばれていた頃、ところは某エアーラインの二階席です。飛行機はパリを目指して飛んでいました。
二階席には、私以外の搭乗客は一人しかいません。そのたった一人の別の客が「シャブリを持ってきてくれ」といったのですが、その言葉遣いがぞんざいであることから、何となくいやな予感はしていました。すると、まずいことに、二階席担当のCAは、なんと、白ワインをグラスに注いで持って来てしまったのです。
ワインというものは、たとえグラス・サービスであっても、できれば、ボトルから目の前で直接注がれるべきものなのです。スンナリとはゆかないだろうな、直感的にそのような印象を持ちました。
案の定、「これはシャブリじゃないよ、こんなものダメだ」とクレーム。
CAの出方はと見ていると、瞬時に「申し訳ございません、直ぐにお取り替えさせていただきます」と丁重に対応していました。
「これはシャブリじゃないよ」といった客は何が気にくわなかったのだろうか、と考えてみました。一つは、大層なワイン通であり、普段から良いワインを飲みなれているので、それに比べて品質が気にくわなかったのでしょうか。そうかも知れません。しかし、雰囲気としては、そうも思えません。
なんとなく過去において飲んだシャブリのイメージのとてもよかった思い出というか、思いこみと違っていたのかも知れません。
さて、くだんのCAは、いったんグラスを引き上げます。
ややあって、別のグラスとボトルをトレーに載せて再登場しました。