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現役ソムリエのコラム


「ワインとグラスのマリアージュ」 Part 1

2009/11/11 田辺公一

 「グラスによってほんとうにワインの味が変わるものなんですか?」

ワインを扱うレストランで仕事をしていると、よくこのような質問を受けます。
ワインに限らず飲み物、料理全てにおいて器というのはとても重要で、味わいに必ずと
いっていいほど影響を及ぼします。
それだけに良いソムリエ、サービスマンはグラスにこだわり、良い料理人は盛り付ける
お皿にこだわるのです。

例えばビールを飲む時にジョッキで飲むのか、細身の綺麗なグラスで飲むのか、もしくは陶器の入れ物で飲むのかによって味わいは変わるのではないでしょうか?
ワインももちろん例外ではなく、とくに使用するグラスによって味わいがデリケートに
変化する飲み物だと考えられます。

グラスは、ワインを楽しむ時の人間の五感全てに影響します。

まずグラスに注がれるときの美しい音色を聞くだけで、そのワインへの期待感が高まりますが、グラスの種類によりこの音はさまざまに変化していきます。
音が味覚にも影響するということをふだん意識したことがない方が多いのではないかと思いますが、ここは重要なポイントです。
レストランのバックサイドでワインを注いで、グラスに入った状態でテーブルまで運ばれるよりは、きちんとラベルをプレゼンしていただいてからテーブル上でワインを注いでいただくほうが、結果的に同じワインを飲むとしても格段にそのワインのクオリティが増すのではないかと思います。

そして色合いです。美しく磨かれたグラスが映し出すさまざまな色合いは、そのグラスを前にした者を魅了します。

ワインの香りはグラスの形状、大きさによって同じワインだとしても、感じ方は大きく変わりますので、それぞれのワインに合うグラスを選ぶことは極めて重要です。

グラスの大きさはワインの温度にも影響を及ぼします。
よく冷やして飲みたいスッキリ爽やか系の白ワインを大ぶりのグラスに注いでしまえば、
あっというまにワインの温度は上がってしまい、特徴である酸がぼやけた状態になるうえ、
香りの要素が赤ワイン等に比べて控えめなために香りが上がってこない等、そのワインの持ち味を活かせなくなってしまう可能性があります。

さらに付け加えるとグラスの大きさはワインの酸化にも影響します。
よく熟成したワインを偉大なワインだからと、一番大きなグラスで飲んでしまうと、すでに樽や瓶の中で熟成を経て酸化熟成のピークに達しているワインは、グラスに注がれた瞬間から酸化が一気に進んでしまい、このデリケートなワインは時間が経つごとに香りのバランスを失う危険性があります。



味わいに関して言えば、グラスの形状、厚みにより舌へのワインの流れ方、接触角度等が変わります。それぞれのワインの主に品種等の特性を知ったうえでのグラスのセレクトが重要になるのです。

ここに記したことは、ワインとグラスのつながりに関して考える時の私の基準の一部ではありますが、さらにそれぞれのワインを知っていくことによって、皆様それぞれの考え方や選び方、理論ができあがってくるものだと思います。

最も重要なのは、頑なに理論にこだわりワインだけに焦点を合わせるのではなく、あくまで理論を知ったうえでそれぞれのシチュエーションやTPO、飲み手の価値観や好みに合わせるということが何事にも大事だと思います。

コラム作者:プロフィール

田辺公一
日本ソムリエ協会認定 ソムリエ
2005年 ロワールワインソムリエコンクールファイナリスト
2007年 キュヴェルイーズポメリーソムリエコンテスト優勝
神戸北野クラブ、ザ・リッツカールトン東京等、
ホテル、レストランでソムリエを務める
現在 恵比寿のワインスクール レコール デュ ヴァン講師


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